横浜モンテッソーリ幼稚園の教室は「感覚教具」「数教具」その他で満たされています。
皆さんもよくご存知の通り、これらはマリア・モンテッソーリが子ども達の「知性の扉をあける」ために編み出した鍵になる教具です。
今日は、その数教具のひとつである「銀行あそび」に熱中したある女の子の成長についてご紹介します。
1~9999までの数を組み合わせながら、大きな数をつくる楽しさを知る。その手助けをする教具としてカードとビーズがしばしば用いられます。
小さな子ども達が美しいビーズを手にしている姿は、手芸遊びのようにも見え、端から見ると、おままごとをしているように見えるかもしれません。
しかしよくよく観察していますと、子ども達の数に対する知的好奇心は驚くほどで、その大きな熱狂には目を瞠るばかりです。
その女の子が、銀行あそびに興味を示しました。最初はキラキラ輝く、ビーズの美しさに魅せられて、興味が湧いたようでした。小さな指先でビーズをたいじそうに、ひとつひとつ、つまみながら「量」を知っていきます。
10個の珠を束ねれば「ビーズ棒」の出来上がりです。
この時、女の子は10という単位を「長さ」で知ることになります。
そして1~10のビーズ棒の長さに慣れると、次にその棒を横一列に並べ、やがて10列並べはじめるようになります。これはまさに、100という大きな数の発見の瞬間です。この繰り返しによって「単位」という概念が、女の子の潜在意識に入り込んでいくのです。この光景は何度見ても、素晴らしい神秘です。
このように数の数え方をおぼえはじめ、手を使って繰り返し遊んでいるうちに、自然に十進法をマスターしてしまうのです。
最初はおままごと遊びのような感覚でビーズ珠と戯れていたにすぎなかった女の子でしたが、毎日毎日、銀行あそびを繰り返すうちに、その顔つきがどんどん変わっていきました。ある日のことです。
「銀行屋さん、両替してください」
年下の男の子がそういいながら箱いっぱいに入ったバラバラのビーズ珠を女の子に差し出しました。女の子はバラバラの珠をおもむろに10の長さに揃え、次々にビーズ棒をこしらえ、慣れた手つきで勘定していきます。
ほどなくビーズ棒に両替し、男の子に戻しました。両替、完了です。
その時の、彼女の自信に満ち溢れた、表情といったら! 本物のバンカー顔負けです。バックオフィスの女王という風格さえありました。
私は「よくできたね」と褒めました。そして、ふと尋ねたのです。
「9999の、その次は?」と。するとどうでしょう。
「次は一万!万の次は億! 億の次は兆、その次は京、京の次は垓、垓の次は秭、…………………無量大数!」
瞬く間に、そう言い終えた時、女の子の頬は高揚して赤くなっていました。
10の68乗。無量大数!
小さな体で、大きな数の概念を無我夢中で受け止めていたのでしょう。
数の神秘を知りたい。5歳の女の子の中に眠る知性の扉が、まさに「銀行あそび」という鍵によって開かれたのです。
足し算、引き算、掛け算、割り算は習う年度が定められている。
これが従来の教育です。無限に広がりゆく子ども達の可能性から見れば、それがどれだけもったいないことであるか。彼女が教えてくれました。