夏休みの心得2:やわらかい手・軽い手・決まった手
7月 28

夏休みの心得2:やわらかい手・軽い手・決まった手

 2022年の夏休みが始まりました。みなさま、お元気にお過ごしですか? 夏休みの心得1をブログに掲載してからあっという間に3年が経ってしまいました!

 この3年間、「新型コロナウイルス」で世界中が大変なことになりましたよね。私たちの日常もずいぶん変わりましたが、「おしごとをしたい!」「手を動かしたい!」という子どもたちの生命衝動は不変です。

 感染者数の増加を伝えるニュースが続く毎日ですが、お父様、お母様。こうした状況下でも、どうか、子どもたちの内なる声を聞き逃すことのないように有意義な夏休みをお過ごしください。

 1学期の間、子どもたちは、手を使って様々な活動をしてきました。モンテッソーリは子どもたちの手の発達の段階を「やわらかい手・軽い手・決まった手」というすてきなことばで示しています。
先日、青組さんのお母様たちとの懇談会でこんなお話をさせていただきました。いよいよ青組さんは「決まった手」をつくる大事な時機を迎えています。文字を書けるようになった喜びと書く楽しさを味わいながら、夏休み中、どうかお家では書かれた文字だけでなく、子どもの鉛筆の持ち方に注目してください。

 きれいな文字を正確に書けるようになるためには正しい書き順、一文字一文字心をこめて書くなど、注意すべきポイントはほかにもいろいろありますが、まずは中指、人差し指、親指の三本がイラストのような正しい位置で持てているかどうか。しっかり見てあげてください。

 中指が前に出る、ぐうで握りしめるように鉛筆をもっている子がおいでになるようでしたら、直接強く訂正するのではなく、楽しい雰囲気の中で、自分の癖に気づいていけるようにやさしく促していかれるとよいですね。子どもたちは早い時期から文字を書きたがっているので、すでにくせ字になっている傾向もありますが、「決まった手」が出来上がったしまったあとでは癖字がなかなか直しづらいものです。決まった手とは、自分の意志通りに動かすことのできる手のことです。そのためには軽やかな手の動きが不可欠なのですが、黄色組さんの時期にはまだまだ思い通りに手が動かないこともあるでしょう。そんな時は、HBの鉛筆よりも柔らかい素材のフェルトペンや4Bの鉛筆、筆ペンなどが助けになりますよ。

 実は鉛筆を持つ三本の指の活躍はなにも青組さんにはじまったことではありません。赤組さん、黄色組さんの頃の活動を思い出してみましょう。 

 ダンゴ虫をつまむ、ボタンをはずす、洗濯ばさみをつまむ…。
そうです。日常生活のあらゆる場面で必要でした。感覚教具においてもそうです。はめこみ円柱しかり、ピンクタワーしかり…。

 モンテッソーリ幼稚園では日々の活動の中で自然と三本指が繰り返し鍛えられる教具が溢れています。さらにもうひとつ、忘れてはならないものがありますよ。そうです。私たち日本人が毎日使う、お箸です。言うまでもなく、ここでも三本指が重要な役割を担っています。
最近、お箸を上手に使えない子どもが増えているせいなのか、お箸を上手に持つための「矯正器具」が流行っているのだそうですね。

 でも、残念なことに、その器具を用いてお箸が使えるようになった子は小指が立ってしまったり、中指が不自然だったりするため、見る人が見ると一目瞭然です。やわらかい手の時期に、敏感期に導かれて自然と三本指を繰り返し使う機会を十分に持てたなら、「矯正器具」など必要ないのです。

 このお箸の話を聞いて、私は甘えん坊のI君のことを思い出しました。確か、あれは赤組さんとして入園してきたばかりのことでした。お食事の時間になるとI君はお母さんが作ってくれたお弁当を机に置いたまま、いつもぽかんとしていました。皆んなが食べ始めても、お弁当箱を開けようともしません。隣に座っていた青組さんのお姉さんがそんなI君を見かねて、お弁当箱を開けてあげました。お弁当の蓋が開き、おいしそうなごちそうを目の前にしても、それでもI君はスプーンを持つこともないのです。驚いたお姉さんがスプーンでごはんをすくってI君のお口に運んであげると、どうでしょう。口は動くのです。でも、手は動かない。自分でスプーンを持つことさえしない。

 I君のお母様はいつも「はい、あ~んしてね」とI君のお口まで運んであげていたのでしょう。愛情の深い、子ども思いのお母様に育てられたI君。ごはんは誰かに食べさせてもらえるものだと信じて疑わない様子でした。
まあ、仏の顔は三度までといいますが、さすがのお姉さんも3日目には「自分で食べようか」と文字通り、さじを投げてしまいました。

 自分で食べるしかない。そんな状況に追い込まれたI君はいったい、どうしたと思いますか? スプーンの持ち方もままならないので、おこぼしばかりです。それを手づかみで食べるようになった姿を見て、私は「シメシメ」と、思いました。手づかみはお行儀が悪いと制するご家庭が多いですが、手づかみこそ、子どもにとって食べたいという衝動を叶えるために、大事な三本指が最初に発動する貴重な機会なのです。おこぼしよりも、貴重なとりこぼしがないように。

 この夏休みはどうぞ、子どもの手をいつもより気にかけてみてあげてください。やりたいこと、夢中になれること。ぜんぶ手が探し当ててくれるのですから。

 さて。その後のI君。どうなったと思いますか? 繰り返し手を使うことに夢中になることで、やわらかい手・軽い手・決まった手を自分のものとし、青組さんになる頃には絵筆を誰よりも上手に操り、水彩画に没頭するなど自分でおしごとを選べるまでに成長しました。

 そうです。きっかけさえあれば、子どもは変われるんです。
I君の自立を変わらぬ愛情を持ち、辛抱強く待ってくださったお母様の協力も見逃せません。そんなI君が卒園後、ランドセルを背負って遊びに来てくれました。頼もしいその姿からは甘えん坊のI君を想像する人など、誰一人いないことでしょう。

 青組さんのお教室に飾ってある、「鉛筆の持ち方」手本のイラスト

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あああ
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