子ども達に、「世界を与えよう」。
10月 31

子ども達に、「世界を与えよう」。

 子ども達の成長は果てしないものです。運動会を経験し、すくすくと育ったのは体だけではありません。心もまた大きく育ちました。

 今日は運動会がきっかけとなった「知性の芽生え」についてご紹介しましょう。

 

 おぼえていますか? 運動会を彩っていた世界の国旗を。私達大人からすればお馴染みの、見慣れたアイテムのひとつにすぎないかもしれません。ですが、子どもにとってそれは知性を開き、「世界とつながる」ための輝かしい扉でした。

 

 あれは夏の終わりのこと。私はAちゃん(5歳)と仲良しのBちゃんの目の前に地球儀を置き、くるりと一周させてみせました。ふたりはまず、それをじーっとみつめました。大陸部分が茶色、海が水色と二分されただけのシンプルな地球儀です。ふたりの女の子は小さな手で地球儀をくるくる回しながら大陸と海の大きさ、広さを熱心に手で触って、確かめています。

 

 次に平面になった世界地図を見せました。大陸が色分けされ、パズルになっているものです。ひとつずつ取り外し、形を指でなぞらせ、ひとつひとつゆっくりと名前を与えました。それ以来、ふたりは夢中で世界を開拓していきます。

 その姿はまさに小さな探検隊でした。

 

 「アジア、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニア、北アメリカ、南アメリカ、南極…」と大陸の名前を声に出して唱えはじめると、年少さん(3歳)、年中さん(4歳)の子ども達もお姉さんたちの真似がしたくて、自然とそばに寄ってきます。

 そして一緒に「アジア、アフリカ、ヨーロッパ…」とリズムカルに輪唱するまでになりました。

 

 やがて子ども達はそれぞれの好奇心に導かれるように、思い思いの「世界の探究」を開始しはじめました。

 大陸別に色分けし、無心で塗り始める子。大陸の名前を声に出して暗唱する子。

 大陸のパズルをバラしては、正しい場所にひとつひとつのピースを戻す作業を繰り返す子。大陸の名前だけでは物足りず、それぞれの州の国の名前をマスターしはじめる子。好奇心の現れ方は実にさまざまでした。

 運動会の準備がはじまったのはちょうどそんなタイミング。ある日のことです。運動会で使う国旗を目にしたCちゃん(5歳)がこう言い出しました。

 

 「先生、旗の名前をおぼえたい」

 

 まさに「知性の芽生え」の瞬間です。この機会を見逃してはなりません。

早速、世界の国旗が載った大きくて見やすい図版を探すために街へ繰り出しました。

 翌日、大きな一冊の図版を教室に置くと、すぐにCちゃんを中心に新たな探検隊が結集し、図版を取り囲みます。パラパラめくってしばらくすると、CちゃんとD君は国旗の色と形を何度も確かめながら、自分の手で紙の上に書き写しはじめました。周りの子がそれに続きます。

 ある日はアジアの領域を。またある日はアフリカ大陸を。子ども達は果敢に探求していきます。

 

 「ねえ、バングラデシュとパラオは似てない?」「色味が違うよ」

 そんな会話が飛び交うなか、国旗を書き写すことを繰り返すうち、都市の名前やそれぞれの母語の種類まで覚えてしまう子もでてきました。

 「カナダの国旗は葉っぱだね?」「何の葉っぱ?」「メープルの木だって」

 こうして世界の国々の名産までいとも簡単に、しかも楽しみながら自然に覚えてしまうのです。

 

 マリア・モンテッソーリは6歳までに子ども達に「世界を与えよう」と言っています。子ども達はまさしく、世界を発見したがっていました。

 

 私達大人は、子どものこうした好奇心の「芽吹きどき」に敏感でいたいものです。芽吹いた好奇心がすくすくと育つための秘訣はいたってシンプル。

 植物の「水やり」は遠くから。決して教えるのではなく、あくまでもさりげなく、ひとつひとつ、ゆっくりと「示す」ことがポイントです。子ども達が興味を示すものを「自分で選ぶ」こと。そして繰り返し活動する姿を見守ることがたいせつです。

 

 お教室の壁にはいま、子ども達が描いた国旗が勲章のように輝いています。

 

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あああ
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